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な発展のためには、遊びばかりでなく、現在の観光に欠けている「触れ合いや学びの部分」に注目し、これを地道に浸透させる努力が必要である。
旅行業は、人が人に旅行サービスを提供することから、機械化が進めにくく、労働集約的な側面を多く抱えており、業務の効率化がなかなか難しい業種である。運送業者や宿泊業者は、自分たちは動かず、いかに旅行業者を動かして自分のビジネスに協力させるかばかりを考え、旅行業者は、いかにお客に取り入って自分の利益を確保しようかばかりでいっぱいになっている。本来は旅行業界内部に蓄積され、顧客への「より優れたサービスの提供」の形で還元されるべき、取引業者からの販売促進協力金等の貴重な財源もすべてさらけ出して、価格的な差別化のみに終始してきた姿勢は果たして改善されたであろうか。
旅行とは、低価格でさえあれば、それだけで顧客の満足が得られるものであろうか。取扱高の拡大だけを追求する経営で、果たして「顧客満足」や「顧客へのより優れたサービスの提供」につながるのか、はなはだ疑問である。旅行業者は、旅行者に対して質の高い旅行サービスの提供ができるよう、ノウハウを蓄積し新しい魅力を開発し続けなければならない。
商品の流通においては、旧来のメーカー主導の「メーカー(製造業者)→ホールセラー(卸業者)→リテイラー(小売業者)」の関係は、今や「リテイラー→ホールセラー→メーカー」へと川下志向=消費者優位へと逆転しなければ、顧客の支持が得られなくなってきているが、旅行業界における流通は旅行者主導のマーケットに変革できているだろうか。旅行者にとって、メディアで募集される極めて安い旅行代金のツアーがなぜ可能なのか不思議だし、旅行の品質と旅行代金の関係が正確に理解できない。旅行業者はこれについての旅行者への明快な説明ができていない。旅行業者は、旅行者不在のマーケティングを続けていれば、必ず支持が得られなくなることをしっかり認識して、正しい情報を発信し、関係する運送業者・宿泊業者等の観光業界がまとまって連携し協調しながら、新しい旅行者主導のマーケティングを構築しなければならない。また、一方で旅行業者のサービスの提供に対して、適正な手数料を旅行者に負担していただけるよう理解や信頼を得る努力が必要である。旅行業者には、顧客満足を充足する完成度の高いサービスを提供することと、サービスに対する正当な評価や報酬を得ること、の二つに対する取り組みや姿勢が求められている。

 

旅行業を取り巻く環境の変化

意識の変化と規制緩和に適応すべき旅行業界
消費者の価値観はますます多様化し高度化している。比較できるだけの豊富な情報源を持ち、価格と価値に厳しい選択眼を持った、賢い消費者の出現である。
経済一辺倒の社会に大きな警鐘を鳴らしたのは「貿易摩擦」であり、「バブル経済の崩壊」であった。国民は、まじめに働くことが「悪」であるかのような諸外国の批判に対して、空しさを感じたり、常に右肩上がりの経済の成長などあり得ないことを悟り、経済最優先の社会に対する疑問を強く抱くに至っている。戦後の日本の経済成長を支えてきた中高年者でさえ、「会社や仕事重視」から「自分や余暇重視」へと意識が変化し、国民全体に自分他著の行き方や考え方は今のままでいいのか、もう一度考え直そうとの機運が強まっている。平成8年7月に実施された総理府の「国民生活に関する世論調査」では、「心の豊かさや、ゆとりを重視して生活をしたい」とする人が58.8%で、過去最高となる一方、「物質的な面で生活を豊かにしたい」とした人は、過去最低の27.9%で「物」よりも「心」を重視する傾向がさらに顕著となって

 

 

 

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